【BL】夕焼け色と君。
「えっと………」
別に用があったわけじゃないし、何を言っていいのか分からない。
言葉に困っている間に日椎は鞄を手に取り、出口へと向かってしまう。
「あ、待って。」
止まらない足に慌てて日椎の腕を取る。
「………何?」
少し怒った声音に聴こえた。
「本当にごめん。そんなに怒らないでくれよ……」
「………盗み見るなんていい趣味してんな。」
「違う!確かに気になって近付いたけど、日椎が気付くようにちゃんと隣に立ったじゃん。でもお前が集中してて全然気付かなくて、それで………」
「………それで?」
変わらない無表情に、俺は視線を下げた。
「………そんなに怒ると思わなくて、本当にごめん。」
数秒、もしかしたら数分の間無言の時間が流れた。
静寂を破ったのは日椎の小さなため息。
「……………俺が読んでいた本のこと誰にも言わないこと。」
「ぇ?」
「謝罪はいらない。だから守って。」
許してくれるってことなのかな……?
恐る恐る上げた視線。
髪と同じ色をした瞳が俺を捕らえていた。
「守るの?守らないの?」
「ま、守ります。」
「じゃあ、この話は終わり。」
そう言って日椎はまた足を動かした。
「あ、日椎帰るの?」
「……そうだよ。」
「待って、俺も帰る。」
自分が図書室に来た目的なんてすっかり忘れて、日椎の背中を追った。
ーー俺はまだ知らなかった。
日椎が読んでいた、字のない、真っ白なページの本の意味を。