◆あなたに一粒チョコレート◆
vol.1

エースは幼馴染

***

「春っ!春っ!私、今日は無理かもしんないっ!腕に力入んない」

「何言ってんのっ。社会の単位足りなくなっちゃうよ?これくらいの高さ、頑張ればいける!」

私は菜穂にそう言うなり、目一杯腕を振ってからスクバを放り投げた。

「オッケ!」

見事に私のスクバは弧を描いて塀の向こうへと消えていき、バサッと音だけが聞こえる。

私はそれを見届けた後、同じクラスの菜穂を振り返った。

「ほら、菜穂も早く」

「……分かった。けどそろそろ、もっと楽に入る方法考えようよ。毎回ここから入るのは体力的に辛いわ」

「なら髪をもっと暗い色にする?スカートも中途半端な長さにしてソックスも足首までの三つ折りだね。そうすれば、校門で待ち構えてる学年主任をクリア出来るわ」

学年主任はうるさい。

スカートの長さや髪の色に規定はないはずなのに、時々思い出したように校門に立っては生徒の服装や髪に文句をつける。

私と菜穂は特に眼をつけられているから、学年主任が校門にいるのを見ると、こうして野球部の練習場側の塀を乗り越えて校内に入るのだ。
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