スターチス

「返して」
「ヤダ」
「返して」
「ヤダ」
「ヤダじゃないよ。返してくれないと帰れないし」
「帰れなくていいじゃん」
「嫌、帰りたい」
「帰らないで俺といようよ」
「バカじゃないの?」

はぁ~とこれみよがしに溜息を吐く。

本当にありえない。
なんだっていうの。
今日は厄日?って思っちゃうくらい蓮がしつこい。

今までは3回目くらいで納得して他の女の子と遊びに行くのに今日は諦めてくれない。

そりゃあ、あたしだって好きな相手だから“俺といよう”って言われて嬉しくないわけがない。
でもそれが冗談でも本気でも“ただの遊び相手”と思われての言葉なら全然嬉しくないし一緒にいたくない。

「さっきも言ったけど、あたしはいつも蓮の傍にいる女の子とは違う」
「だから?」
「だから、あたしの気持ちも考えて」

蓮はあたしを見て、ゆっくりと肩から鞄を下ろし、あたしに差し出した。

ここまで言わなきゃわかんない?と溜息吐きながら鞄を掴む。

「…ちょっと」
「なに?」
「離してよ」
「ヤダ。じゃあ俺ん家に行こうよ」

全然わかってないじゃん!と全力で驚いた。
あたしの家がダメなら自分の家って一番危ないパターンだし。

溜息が止まらないまま「行きません」と言って鞄をグッと引っ張った。
当然、蓮の手が鞄から離れるはずもなく。

「蓮、いい加減に、」
「遠藤くんにちゃんと断ったらしいじゃん」

急に真面目なトーンで真面目な顔して言うから思わず引っ張ってたのをやめてしまった。

蓮からの二者択一の次の日、遠藤くんが本当にあたしの元にやってきた。
蓮の言った通り告白をしに。

告白されることよりも冗談だと思ってた蓮の言葉が現実になった事の方が驚きで告白されてるのに突っ立ったままになっていて遠藤くんを困らせてしまった。

二者択一で出た“超ブサイク”っていうほどではなかったけど、確かにカッコイイ方ではなかった。
ぽっちゃりしていて蓮とは真逆の彼だった。

ちゃんと丁重にお断りしたけど、彼は笑ってくれたし朝の挨拶くらいはするようになった。

「なんでそれを知ってるの」
「俺が相談を受けたから」
「は?」
「遠藤と地元が一緒なんだよ。で、お前と仲良しな俺が相談受けたわけ」

蓮はあたしと遠藤くんの仲介役だったらしい。
相談受けて仲介役を引き受けるということは本当の本当にあたしは眼中にないって言ってるのと同じこと。

どっちを選ぶ?とか思わせぶりな質問しておきながら本当はどっちでもよかったってこと。
花ちゃんを待ってたあたしを連れ出したのも蓮の気まぐれなだけで本当に何もなかった。

あたし一人が蓮に振り回されてる。
今だって家に行くとかどうとか言ってるけど、それも本当に蓮の気まぐれ発言。

今だって、今までだって、蓮の言動にドキドキしてたあたしは本当にバカみたい。

「もう帰りたいんだけど」

もう何も話したくなくて鞄を強く引っ張る。
当然のごとく蓮はあたしの鞄を掴んで離さない。

なんとも思ってないあたしをそこまでして引き止める理由がわからない。
いい加減イライラしてきたあたしは長い息を吐いて気持ちを落ち着かせた。
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