スターチス

気マグレボーイ


「真実、帰るぞ」
「嫌」
「嫌じゃねぇ、帰るぞ」

ヤダー!!!と言うも腕を引っ張られ鞄を持たれては一緒に帰るしかない。

「バイバ~イ」
「花ちゃん、助けてよ!!」
「ヤダ、蓮くんにあたしが勝てるわけないし」

友達と思ってた花ちゃんもあっさり蓮の言いなりになってしまった。
諦めて何も言わず蓮に腕を引かれたまま廊下を歩く。

最初はみんなの目を引いてた。
大人気で超モテモテの蓮がなーんの魅力のカケラもないあたしを引きずりながら下校する姿。
思い出すだけで恐怖を感じるけど、絶対何か言われると思ってたのに見られるだけで何も起こらなかった。

何かされると思って完全にビビってた次の日、ロッカーを空ける時も、一人で校舎を歩く時も、一人で帰る時も、四方八方にアンテナ張って常に緊張してたけど何も起こらなかった。

こんな事があるのかと不思議に思いながらも安心したけど、蓮の“次のターゲット”という噂だけはどうしても嫌だった。

あの日…花ちゃんの部活終わりを待ってたあの日。
遠藤くんがどうのこうのっていう二者択一を迫られたあの日。
あの日も引きずられるようにして学校を出た。

あの後、蓮が持ち出した二者択一なのに学校を出たら行きつけらしい近くのカフェに連れて行かれて普通にお茶をした。
なんでもない他愛ない話をして帰った。

ずっとドキドキしてたのに蓮があまりにも普段と変わらないからムカついたしガッカリもした。
“もしかしたら”っていう一瞬の自惚れを恥じたし悔した。

いつだって振り回されるのはあたし。
自由すぎる蓮が嫌い。

本気で嫌いになれたらいいけど好きだから仕方ない。
ついでにこの意味のない引きずり行為もあたしの心拍数をムダに上げるだけで蓮からすれば特に意味はない。

こういう思わせぶりな態度が嫌で嫌でしょうがない。
だけど嫌いになれない自分が一番しょうがない。

「蓮、バイト始めたんでしょ?今日はないの?」
「今日は休み。情報が早ぇな」

そんなの聞かなくても聞こえちゃうんだよ、と言おうとして止めた。
言ったところで蓮が聞くはずかないし、この連行が終わるわけでもない。

「どこ行くの?」
「お前んち」
「絶対嫌。無理。バカじゃないの?」
「お前、即答にしても内容が酷すぎるぞ」
「蓮の周りにいる女の子と一緒にしないで」

腕を振って蓮の手を離す。
蓮は一瞬だけ驚いた顔をしたけど、すぐに嫌な笑顔になった。

「じゃあ、どこ行く?」
「ここでお別れです」

突き当たりのT字路で立ち止まる。
あたし達はここで別れて帰る。
普段通らない道を通っていたから腕から手が離れたのをいいことにここへ向かった。

あたしの家は少し遠ざかったけど、それも仕方ない。
蓮の好き勝手な行動には疲れた。
いくら好きな相手でも今回だけは冗談がすぎると思う。

「なんだよ、今日は冷たいな」
「そんなことない」

手を前に差し出し、“鞄返して”と態度で示すけど蓮はそれを肩にかけた。
< 59 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop