陽だまりの林檎姫
確かにタクミが興味を持つのも無理はない。

タオットから預かった手紙を見た瞬間からキリュウをまとう空気が変わり、笑い始めたのだ。

もっと言えばタオットの名前が出た時からキリュウの様子はおかしかった。

「爵位なんて放棄してやる。俺はお前が大嫌いだ。」

「は?」

「そう書いた。」

「…は?」

眉を寄せて目を細めるタクミは明らかに納得していない様子だ。

その顔を見て思わず笑ってしまったタオットだが、タクミが不機嫌になっていくのを感じて咳払いをした。

「キリュウは優しい子でな。あの堅物の兄から生まれたにしては少し敏感すぎたのかもしれない。とはいえ、それも父譲りの物だから何とも言えないがな。」

「はあ。」

「ダグラス家ってのはどうもこう…堅物ばかりでな。兄も随分と厳しく育てられていた。俺は跡継ぎじゃなかった分マシだったけど、それでも時代錯誤な考えだとずっと反発していたよ。貴族たるものこうあるべきだ、そう言われるのが窮屈でね。」

厳格な父とは違い、母は優しく話の分かる人物だったとタオットは続ける。

「母親という逃げ道があったから少しは心に余裕があったんだろうな。あの父親の支配から逃れる為にはどうしたらいいか、それをひたすら考えていた。」

しかし跡継ぎの兄はそれさえも許されず、ただ厳格な父に従いその通りの道筋で人生を歩んでいった。

そしてまるで父親の生き方そのままをなぞる様に性格でさえもそうなっていったのだ。

「よく婿入り出来ましたね。」

「そこは頭を使ったのよ。俺には好きな人がいて、その人の家に婿入りするなんて言えばとりあえず反対されるに決まっているだろう?いかにも政略的に利点があるかをプレゼンしてさも互いの家の為と言わんばかりに結婚した訳だ。」

「おおー。」

得意げに話すタオットの功績にタクミはただただ感心して拍手を贈った。

それと同時に気難しい父親だったという人物から育ったダグラス伯爵に少しばかりの同情もした。

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