陽だまりの林檎姫

3.お遣いの意味

画期的な新薬の開発によって急成長した相麻製薬。

その本社は人が多く賑わう地域に移され、いつしか大きな1つの建物へと生まれ変わった。

新しい本社の中は煌びやかな装飾が施されており、その豪華さに訪れる人は思わず見惚れるくらいのものだ。

初めて来た訳ではない栢木も思わず見惚れてしまう最新式のデザインには、そこに勤める社員全員が自信を持っている。

上を見たまま口を大きく開けたり、周りをきょろきょろ見るような仕草こそはしないが、やはりどこか落ち着かない心が栢木にはあった。

どちらかといえば厳かな雰囲気の建物に慣れているからだろうか。

新しい建物にはまた違う勢いがあるような気がして戸惑ってしまうのだ。

「まさか栢木さんが来て下さるとは。強く念じれば叶う事もあるんですね。」

栢木の前を歩いて本社内を案内する三浦がいつものように優しく微笑んだ。

受付で北都と栢木の名前を出せばすぐに三浦が社長室から迎えに来てくれたのだ。

その対応は有難く思うが緊張や申し訳なさも合わさって少し居心地が悪かった。

わざわざ貴方が出てこなくてもいいのに、そんなこと口には出来ないが複雑な思いを抱えて栢木は三浦の後ろを歩く。

「何かありましたか?」

「はい。早く栢木さんに会えるようにと念じていたんですよ。」

振り返るなり爽やかな笑顔を見せる三浦に栢木は瞬きを重ねた。

「綺麗な女性はそこにいるだけで我々を癒してくれますから。」

常用ではない台詞と、色気を宿した笑顔には世の女性もたちまち顔を赤く染めるだろう。

不意を突かれた事が少し面白くもあったが、栢木は困ったように息を吐くと微笑んだ。

「三浦さんはお上手ですね。」

「いいえ。社長も仰ってました。皆がそう思っているという事ですよ。」

またまた重ねてきた歯の浮くような言葉に栢木は思わず視線を宙へと投げた。
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