イジワル上司に甘く捕獲されました
「……わかればいいんだよ」

ポンっと大きな手の平を私の頭に乗せて。

彼は玄関ドアを開けた。

「じゃ、俺は帰るから。
ちゃんと施錠しろよ」

振り向き様にそう言って外に出た彼に私は頷く。

「……あ、ありがとうございました……」

お礼を述べるとドアが閉まる直前にヒラヒラと振られた手が見えて。

パタン、と閉じたドアの施錠をする。

私は抱えたままになっていた靴を放り出してズルズルと玄関に座り込んだ。

「……何なの……あの人」

玄関に微かに香る香水。

その香りに落ち着かなくなる。

「……あんなに綺麗な人を近くで見たからだよ、きっと」

いまだに速いリズムを刻む心臓の理由を口にして。

「……名前、聞き忘れた……」

肝心なことを聞き忘れていることに気付く。

七階の何号室に住んでいるのかも。

「……今度、聞こう」

一人でまた呟いて。

私は片付けを再開した。



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