桜の愛図
桜の愛図




どこかひんやりとしていながら、花の香りを含んだ空気は柔らかい。

気が抜けて頬杖をつき、窓から中庭を見下ろす。

春らしい色鮮やかな花壇に、花びらがひらひらと舞い落ちる桜の木。



私が嫌いな春をこれでもか! と主張されているようで、身勝手だとわかっていながらも腹が立つ。

教室の中は、わずかな緊張をはらんだ新学期特有の空気で満ちていて、窒息してしまいそうだ。



はあ、と何度目かのため息を机の上に積み上げて瞳を伏せた。

その時、扉のあたりが騒がしくなる。



「あれ、真琴じゃーん!
なになに、もしかして保健委員になったの?」

「そうだよ〜、千里ちゃんもおんなじ?
よろしくね〜!」

「うんうん、よろしくー!」



彼は、私と同じ2年1組の男子生徒。

櫻 真琴(さくら まこと)は、学年で1番の女好き。

軽くて、適当で、不真面目で……私の嫌いなタイプの人間だ。



語尾の伸びた話し方。

中身のつまっていなさそうな会話でありながら、周りを気にとめない音量から興味のない私でさえ耳につく。



「でも真琴が保健委員とかあれだよね、ベッド使う気としか思えなーい」

「千里ちゃん、そんな大きな声で言ったらできなくなるじゃん」

「うわ、サイテー」



最低、なんて。

言いたいのは私の方だ。



職権乱用してあの男は一体なにをする気なのか。

ありえないと思う。考えたくもない。






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