桜の愛図
私の隣の席に腰かけ、彼が笑う姿をちらりと見て、私はまた窓の外に視線を戻す。
春は嫌いだけど、それでもこの男よりはずっとましだ。
窓に身体を寄せて、できる限り彼とは距離を取る。
「それにしてもさー、真琴の頭やばくない?
ピンクの髪とかはっちゃけすぎー」
そう。
私の隣にいる男の髪は、綺麗なピンク色をしている。
いくらチャラチャラしているとはいえ、茶髪や金髪ですらなくピンクだなんて、フィクションのようだ。
そう思うのに、確かにこれは現実。
なにを考えた生きていたらこんな色にしようと思うのか、私には理解できない。
頭おかしいよ、絶対。
「春だしね、桜色だよ。似合うっしょ?」
見ていなくたってわかる。
へへっと笑い声をこぼして、きっとばかみたいに表情を緩めている。
自分の黒髪ボブを視線でとらえ、わずかにほっとする。
うん、これでこそ日本人。
というか地球の人間だ。
ファンタジー小説じゃないんだから、これくらい地味でいい。
確かに隣の男の髪は、不思議と似合っていたけど、それでもその色に染めようという思考回路がわからない。
態度もなにもかもうざったいし、同じ人間だということが信じがたい。