桜の愛図
こんなふうに相手にするのが面倒で仕方がないやつだけど、でももうそれだけじゃないことは知っている。
仕事中は真面目だし、サボることもない。
今のところ1度しか見かけていないけど、真剣に話をすることだってできる。
人は見かけによらないって言うけど、本当だなぁ。
保健室に向かう途中、中庭を通りかかったところで櫻の先を歩いていた私は足をとめた。
ひらりひらりと花びらが宙を舞って、踊っているようだ。
「春ちゃん、どうかした?」
彼の声を背に、どうしてと思う。
「どうして櫻は未来さんを好きだと思ったの」
蕾が膨らんで、花が咲いて、散って。
風は吹いて、雨が降る。
春夏秋冬、巡る日々。
私だって探していたはずの時間の中で、恋に気づくのは……どうして。
「……急だねぇ」
「そうだね」
急なだけじゃない。
〝好き〟なんて直接的な言葉、櫻が未来さんのことについて話してくれた日に1度だって使われていない。
野暮だってわかっているけど、私はそれ以外に恋を表現する言葉を知らない。
だから、教えて欲しい。
「俺はどんな男よりも近く、未来のそばにいたかったんだ。ただ、それだけだよ」
その答えを聞いて、ふっと息が抜けた。
ああ、ああそうかぁ。
みんながみんなそうなのかなんて知らないけど、かんたんなことでいいのかもしれない。
ただ単純に、まっすぐに、想う。
その心の形を、人は恋と呼ぶのだろう。