Spice‼︎
風間は梨花と目があって
気づかないフリで目をそらす。

梨花はその視線が隣にいる茉美へのものだと勝手に思い込んでいる。

「見てるね。

茉美ちゃん、脈ありかもよ。」

茉美は去年新入社員で入ってきた営業本部長の娘だ。

営業部の社員なら茉美と結婚するのも出世の道だと思ってる男も少なくない。

そして茉美はとにかく可愛かった。

茉美自身も縁故入社を恥ずかしいとも思わず、
思い切り利用して、
出来ればこの会社でいい男を捕まえて結婚したいと思っている。

梨花は自分とは全く違うけど
ある意味そんなハッキリした目標を持って進んでる
茉美の裏表ない生き方が好きだった。

「ですよねー?

風間さんと付き合えたら幸せだろうなー。

決めました!私、風間さんに告白してみます。」

「早っ⁈」

「何言ってるんですか!
グズグズしてると良い男はみんな結婚しちゃいますよ?」

「茉美ちゃんの行動力が羨ましいわ。」

「先輩も好きな人とか居ないんですか?」

「え、私?」

その時桐原が休憩室にやってきて
梨花と目を合わせる。

「好きな人…いるよ。」

「えー?誰ですか?」

「うーん、この会社の人じゃないからな。」

梨花は桐原と見つめあったまま茉美にそう言った。

その様子をジッと風間が見ていたとも知らないで
梨花は桐原と視線を絡めあった。

「あ、桐原課長だ。

カッコいいですよね?

でも…悪い男って感じですよね?

知ってます?

桐原課長って専務のお嬢さんと結婚しながら
外で女囲ってるらしいですよ。」

梨花は根も葉もない噂にウンザリする。

「知らない。

その手の話に興味ないから。」

「先輩ってホント冷めてますよね?

他の女子とは違うっていうか…

女子力高くて美人なのに彼氏もいないし
仕事ばかりしてるし…

何が面白くて生きてるんですか?」

梨花自身そう思ってる。

何が楽しくて生きてるんだろう?

楽しみは桐原から声がかかるあの瞬間だ。

「今夜、いつもの場所で。」

二人だけの秘密のスリルを味わうあの時だけだった。

< 5 / 265 >

この作品をシェア

pagetop