吉田は猫である。
吉田と猫
吉田は常に無表情だ。


「先輩、何しに来たんですか?」


そして常に先輩である私への敬意を忘れている。


「何しに来た…って、ほんと酷い言い方をするね吉田は!」


すると吉田はムッとした顔になって「じゃあ言い直します」と言った。


「どうしてこんな場違いなところにいるんですか?」


「もっと酷い!敬意の欠片もない!」


私は溜め息を吐いた。

先輩への敬意というものを叩き込みたいくらいには、吉田は嫌な後輩だ。


「忘れ物を届けてやったんだよ!ほらこれ!ペンケース!昼休みの図書館当番で忘れてたでしょ!」


ペンケースを手渡すと、吉田は「ああ」と言った。


「ペンケースがないなと思っていたんですが、先輩が盗んでいたなんて」

「盗んでない、預かっていたの!」


人聞きの悪い、と睨み付けるけど吉田は気に留めない様子でケロリとしている。

こいつには可愛さというものがどこにもない。皆無だ。


「でもまあ助かりました」


どうも、と吉田が言うので「違うでしょ!」と私は訂正した。


「『ありがとうございました』でしょ?」


すると吉田はあからさまに嫌そうな顔をした。まるで「どうして先輩にそんなこと言わなきゃならないんだ」とでも言いたそうだ。
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