黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
男の右肩にまだ癒えない傷があることはわかっている。
二週間前、ギルバートの短剣が刺さったからだ。
肩を鷲掴んで岩壁に押しつけ、呻く男の脇の下に剣を刺して、外套ごとうしろ向きのまま張りつけにする。
すぐに振り返ってマリウスの剣を躱し、襟を握って地面に引き倒した。
馬乗りになって剣を奪い、無駄のない動きで振り下ろす。
王太子の首の横に刃が突き刺さったとき、奇襲に混乱した近衛師団が完璧に制圧されたことを意味した。
マリウスがギルバートの顔を見て目を見開く。
「お前、当分死んでいろと言っただろう!」
実のところ、いけ好かないミネットの王太子に生かされたのだとわかっている。
フィリーを失ったあの日、マリウスは湖に倒れたギルバートのマントを引き剥がし、フィルに持たせて砦に知らせた。
すべてが終わったら礼を言ってもいいが、まずはフィリーを返してもらう。
「彼女はどこだ。なぜお前がここにいる」
ギルバートは手短に問い詰めた。
こんなところでおしゃべりをしていられるほど暇ではない。
マリウスはたった数秒のうちに動きを封じられた近衛兵たちを見渡し、ギルバートに目を戻した。
試すように片眉を持ち上げる。
「僕と一緒に来るか、地獄の騎士。そのために蘇ったんだろう」
ギルバートは口を真一文字に引き結んだ。
敵国の王女を盗み出すまで、何度でも死の淵から還ってくる。
「フェリシティはおそらくブロムダール城に囚われている。ミネット王がそこにいるんだ」