黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
第五章 黒旗の騎士

28.

「なあ、お前って本当に無慈悲な奴だよ。冷静沈着、鋭く賢明、常に理性で判断し、惚れた女のためなら手段を選ばない。このままミネットのことが好きになったらどうしてくれるんだ」

オスカーが深刻な顔で抗議する。

黒旗騎士団はミネットの近衛兵たちと合流し、プルガドール湖のほとりに建つ伯爵邸へ向かった。

ブロムダール伯爵家は辺境の地に屋敷を構え、フリムランとの戦争が続いた三百年の間、戦に発つ軍隊を見送り、帰還した兵士たちの傷を癒してきた。
旧くから王家との親交が深く、信頼も厚い。

マーガレット妃の生家でありながら粛清を免れたのは、姉の女伯ヴァイオレットが妹と産まれたばかりの姪の居場所を密告し、マルジオに忠誠を誓ったからだった。

ヴァイオレットは王に従って湖の上に建つ城に姪を幽閉し、見張り続けてきた。
今となっては忠実な臣下でさえあるかもしれない。

王女を城に閉じ込め、見向きもしなかったマルジオが女伯のもとを訪ねたとすれば、きっとフィリーもそこにいる。

オスカーとハーヴェイ、そしてギルバートは、近衛兵から制服を剥ぎ取り、マリウスの側近に扮して伯爵邸に潜り込んだ。
黒旗騎士団は屋敷の外に待機している。

「たしかに、お前が一番似合っている」

ハーヴェイの心ない慰めに、オスカーが憤慨して悪態を吐いた。
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