黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

時折人の波に押されながら、脇戸の前へたどり着く。

ギルバートがフードを僅かに持ち上げ、珍しいシアンブルーの目を見せると、門番がサッとドアを開けた。
小さく開いた隙間に身体を滑り込ませる。
脇戸はすぐに閉ざされた。

石の壁に囲まれたラーゲルクランツ城は静まりかえり、広場の喧騒さえどこか遠く聞こえる。

前庭の向こう側、数段の階段を上った先で、正面玄関の重厚な扉が開いた。
中から濃紺のジュストコールを着た男が現れる。

ギルバートが小さく息を吐き出したのがわかった。
パッと手を離される。

「行くぞ」

ようやく、ギルバートの義務は果たされる。
フィリーは唇を噛みしめ、心細さに押し潰されそうになりながら、離れていく背中を追いかけた。





フリムラン国王リチャード・ブルースは、濃いブルネットの髪をした壮年の男だった。

背丈はそれほど高くないが、強靭な肉体と威厳を持ち、王家の血族だけに許された品位を漂わせている。
大綬と胸に掲げられたいくつもの勲章は、若きリチャードが誇り高い戦士であったことを示していた。

濃緑色の椅子に深く腰掛け、フィリーにソファを勧める。

「我がフリムラン王国へようこそ、フェリシティ王女殿下。長旅でお疲れでしょう。初めての訪問はいかがでしたかな」
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