黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
フィリーが通されたのは、城の中で一番小さな謁見の間だった。

ロイヤルグリーンの壁に金縁の大きな肖像画が飾られ、部屋の奥には暖炉が備え付けられている。
つややかなブラウンのテーブルの向こう側にリチャードが座り、その横には宰相のアルコジー侯爵エルメーテが立っていた。

濃紺のジュストコールを着た宰相エルメーテは、背の高い細身の男で、頬のこけた青白い肌をしている。

フィリーの背後にはギルバートとオスカーが控えていた。

まだ夕焼け前だというのに、広い窓は分厚いカーテンに閉ざされている。

「ありがとうございます。こんなに素敵な国を拝見したのは初めてです、本当に。陛下のお手を煩わせることになってしまい、申し訳ございません」

フィリーは両手を握り合わせ、振り向きたくなるのを必死に我慢した。

敵国の王女を助けてしまったときから、ギルバートの任務はフィリーを国王のもとへ連れてくることだった。
これ以上、ギルバートが責任を問われるようなことは決してあってはならない。

「私は、ミネットへ戻ることになりますか」

リチャードが口元を覆うようにして、小さく整えられた焦げ茶色の髭を片手で撫でつけた。
灰褐色の目がフィリーをじっと見ている。

「失礼ながら、王女殿下は随分長い間、ブロムダール城の中におられたと聞いていますが」

フィリーはパッと頬を赤くした。

「生まれてから、十七歳になるまでのことです。結婚式のために王都へ向かうはずでした」
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