黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
フランツが苦心して顔を顰めた。
「仕方がない。ティホはなんとかジェレミーの酔いを覚ますよう、手を尽くしてください。ジョットはヨッヘムがもう少し早くここへ来てくれないか交渉を。カミラとほかの皆さんは、街で煙突掃除をできる者がいないか手分けをして探しましょう」
使用人たちが家令の指示に頷き、円を崩してそれぞれの持ち場へ足を向けたところで、フィリーは階段の陰からフランツの前に飛び出した。
みんながギョッとして距離をとる。
ギルバートの形式上の客人に、あからさまな憎悪を向ける者はいない。
けれど、誰も目を合わせはしなかった。
フィリーは震える両手を握りしめる。
「あの……私も、できます」
戸惑うフランツがカミラと顔を見合わせ、困ったように首を振った。
「お気持ちはありがたいですが、街を出歩くのは得策でないかと。屋敷の外へ出ていただくわけにはいきません。国王陛下のお考えですから。必ず私どもで煙突掃除人を見つけて参りますので、どうかご安心を」
拒絶されたフィリーは眉を下げ、恥ずかしそうに肩を竦めた。
わがままかもしれないけれど、諦められない。
勇気が萎んでしまわないうちに早口で言い訳をする。
「いいえ、お屋敷の外へ出る必要はないと思います。ただ、黒いシャツとスカートを貸していただかなくてはなりません。煤で汚れてしまいますから。これは本当に知られてはいけない秘密ですけれど、ブロムダール城の煙突掃除人はいつも私を屋根の上まで連れていってくれました。二回はやり方を教わっています、つまり」
フランツが驚いて目を丸くする。
フィリーは耳殻まで真っ赤になったけれど、それでも引き下がらなかった。
「私に、煙突掃除をさせてくれませんか」