私を作る、おいしいレシピ

「うっさい! 違う」


真っ赤になる顔を隠したくてそっぽを向いていたら、ガサゴソという音が聞こえてきた。
いつの間にか、イチくんが冷蔵庫の中をあさっていた。


「よし、白菜もあるし。今日は俺様が作ってやろう」

「は? なんで? 暇なの? 実家から遠いのにわざわざ出てきたんでしょ、酒田くんにまだ用事あったんじゃないの?」

「ないよ」


イチくんは勝手に台所をあさり始める。包丁を見つけ出し、すぐに軽快な音を立て始めた。
高校生の男の子がこんな自然に料理とかする姿ってなんか不思議だ。
家でも作っているんだろうなぁっていうくらい、立ち姿が自然。


「誠、週末は忙しいし。俺、今日は暇だから、探してただけ」

「何をよ」

「お前を。チャリ通っていうくらいだから学校からそう遠くないんだろうなって思って」


瞬間、沸騰したみたいに顔が熱くなった。
何を言っちゃってるのこの人。


「な、なんで?」


ドキマギしながら聞いてみたら、カウンターの向こうでイチくんが苦笑した。


「お前、賢いくせにアホだな」

「はぁ? 真性のバカに言われくない!」


そこからなぜかケンカに発展し、先ほどの言葉の意味を考える暇はなくなった。

三十分もかからないうちに、お鍋には鶏なべが出来上がった。
でもまだ夕飯には早い。どうやって時間つぶそうかななんて思っていたら、イチくんが立ち上がった。


「じゃあ帰るわ。ちゃんと食えよ、アホ!」


なによ。作ったくせに食べていかないのか。
……一緒に食べられるかな、なんて思ったのに。

しかし、私の中の天邪鬼は可愛いことなど言えないのだ。


「うっさい。帰れ、バカ」


出てきた言葉はケンカ腰。
イチくんは相変わらずチェーンベルトをジャラジャラ鳴らしながら、舌を見せたまま走っていった。

私も笑ったり手を振ったりはしなかったけれど、彼の姿が見えなくなるまで家の中には入れなかったし、中に戻ったら戻ったで、いい匂いのお鍋に泣きたくなった。


「平日も鍋だってのに土曜もかっての」


憎まれ口をついては見たけど、本心はうれしかった。
寂しいだけの家が、急に温かみを帯びたみたい。
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