野良猫を愛す
暫らく嫌な静寂が続いた。結は俯いたまま息をしてるのかどうかも分からないほどに静かだった。そんな中最初に口を開いたのは涼だった。
「なぁ~結ちゃん?いつもあんなことされてるん?」
「ごめんなさぃ…」
「謝って欲しいちゃうで?このままじゃ、あかんやろ?結ちゃん話してみ。俺も斗和も結ちゃんを守りたいんよ。とりあえず、そのままじゃ店に入るわけいかんね。結ちゃんの家に送ればええかな?」
「うん…結がデブだからキモいって。それで、無視されていつもあんな感じで。でも、どうでもいいの。結が我慢すればいいだけだし。でもデザイン画はだけは…」
「もうええよ。つらいこと言わせて堪忍な…」
「おい!結…痩せればいいだけだろ?あとあんな奴らに、やられて言いなりってお前馬鹿なの?ちゃんと立ち向かえよ。まぁ…お前がこのままでいいならいいけどよ」
「結だって、今のままでいいなんて思ってない!でも怖いんだよ!!結の気持ちなんて斗和さんにはわからないでしょ!!!!」
結が声を荒げたので涼が止めに入ろうとしたが俺が辞めさせた。
「言えたじゃねえか。あいつ等にも言えばいいんだよ。それで更にやられるなら、俺たちが守ってやる。俺らは、まだ出会って日は浅いが俺も涼も結を妹の様に思ってるんだよ。ダイエットもしろよ?俺が手伝ってやるからさ。・・・って泣くなよ~」
「だって~斗和さんが・・・」
「ほら、怖い斗和なんてほっといて結ちゃんの家に着いたで?・・・ってでかいな」
目の前には、日本には似合うわけのない三階建ての洋館があった。門があって庭を通るとやっと大きなドアがあった。その大きなドアを結が開けて中に通された。
中に入ると広い応接間に通された。ここが日本かどうかも分からなくなるくらいの調度品が並べてあった。大きなアンティークののソファーが並べてあった。
「あの・・・ここで待ってもらえる?結、シャワー浴びて着替えてくる・・・」
そう言うと2階に消えていった。
「なぁ・・・斗和・・・結ってお嬢さんなん?」
「俺は何も聞いてないわ。てか、でけーな・・・」
しばらく待っていると結が降りてきた。しかし、その姿を見て目を疑った。肩に着く程に長い髪を短く切られていた。
「結?その頭どないしたん?」
涼が声を掛けたが返事もせず。俺の目の前に立った。座ってる俺を見下ろす結の目は、先程の死んだ目とは違って何かを決意した目だ。そうすると、いきなり俺に平手打ちをした。
「結はもう、負けない!絶対に屈しない!だから、結をみていてよ。それに、今度突然抱きしめたら蹴り入れるからね!!!!」
さすがに平手打ちされて驚いたが。その俺より小さな手が震えていたのがわかった。
きっと、相当な覚悟で髪を切り今ここに立っている。この子は不思議な子だ。
さっきまでの弱い女の子じゃない。いまは気高い野良猫のようだった。
結の頭に手を伸ばすと結は肩をすくめた。少し乱暴に頭を撫でると力が抜けたのか床に座りこんでしまった。
「結ちゃん。ほら立ちーや。まずは、その頭なんとかせんと…髪切るハサミあるか?俺が可愛くしたるわ。斗和大丈夫か?あ~ぁ、赤く腫れとるやんなぁ。結ちゃん冷やすもんある?斗和も意地悪しすぎやで?」
結から氷嚢を受け取り、髪を切り揃えられてく結を眺めてた。結の髪を切りながら涼が結に話しかけた。
「結ちゃん、思い切り雰囲気変えてもええ?今までの結ちゃんじゃない!ってわかるようにどうやろ?それに結ちゃんは可愛らしいから顔を髪で隠すの勿体ないわ~片方は刈り上げて逆は長さをそのままにしてモードな感じとかどうやろ?」
「涼さんにまかせる…好きにして。」
「斗和~あっちで座っとき?結ちゃん可愛くしたるから出来てからのお楽しみや」
そういわれて、追い出されてしまった。なんとか、あのイジメから結を守ってやりたいって思ってしまった。
(ダイエット…か。どうするかな…。)
そんなことを思ってると涼が結を連れてきた。
「ほら結ちゃん。斗和と仲直りせぇよ。」
「斗和さん…叩いてごめんなさい。」
俯いて顔を上げない結を見下ろすと不安でいっぱいなのが手に取るようにわかった。「結…やればできるじゃねーか。俺にやったみたいにすれば、環境も変わるさ。ほら下見てねー顔上げな」
顔あげた結をみて驚いた。今まで髪で覆われて見えずらかった瞳が露わになってまるで猫のような大きな瞳。消して美人ではないがとても可愛い顔をしていた。コイツは原石だ。まだ誰も触れていないだけで磨けば光る。まだ何も知らない子猫と同じだ。だからこそ、強くて弱い。自由がないと生きられない人種だ。だから、親とも馬が合わず此処にいる。すべてが理解できた。
結の頭を改めて撫で、結と視線を合わせる為に少し屈んで出来るだけ優しく話した。
「結、なんでも俺と涼に話せ。全部受け止めてやる。ちゃんと守ってやるから兄貴だと思ってさ。」
「こんな、怖い兄貴やだなぁ…(笑)ありがとう。髪型おかしくない?」
「可愛いぞ。元々可愛い顔してるんだから隠すなよ。」
「可愛くなんかないよ」
結の気持が落ち着いてからアトリエでデザインの説明をうけた。この一枚のデザイン画を描くために大量の下書きが存在していた。雑然と置かれたデザイン画に手をのばした。
「結?これ全部デザイン画か?」
雑然に置かれたデザイン画を集め始めた。
「男服のデザインは初めてだから色々と描いたんだ。」
「えらく描いたんやね?ほんまにすごいわ。」
「そうかな?ざっと100枚くらいだよ?」
「100!!!すごいな…」
そんなこといってるうちに採寸が始まった。採寸と別に体型が変わりやすいかどうか、質問された。
涼は体重が変動しやすいことを伝えたら結が少し悩んだ。
「そっか~じゃぁ5センチ余裕を持って作るね!ライブの日行ってもいい?」
「もちろんや!リハも来てや!なぁ斗和!」
「あぁ、構わないさ。」
その後、たくさんの布を当てながらデザインに合わせて決めて行った。
「じゃぁ、出来上がったら電話するね」
「おう!」
そう言って結と別れた。
「なぁ…斗和。結ちゃん…あんなこと毎日されとるんやろか?」
「そうだな…辛いだろうな。あんなんされてたら。」
「そやね…それにしても斗和やりすぎやな。可哀想やんか」
「涼、相変わらずだな。同情されたって前進めねぇよ。誰かが目を覚まさねぇとさ。それにしても、痛いわ。殴らなくてもいいのによ…」
「まだまだやね~斗和も。結ちゃん純粋なんやね。だから恥ずかしかったんやろな(笑)」
「あぁ、お前も殴られたらいいわ。俺帰るわ。」
涼に車で送ってもらい。一人暮らししてる狭い部屋に戻った。
(ダイエットか…)
まずは、ダイエットについて調べる事にした。
(男と違って女の子の体は痩せずらい。リンパマッサージを基本にして、運動・食事を見直す。何よりも難しいのがストレスコントロールか…はぁ…。結が変わろうとしてるんだ。俺も頑張るしかないか…)
家を出て、本屋でダイエット本を買い漁った。女の子が痩せるって大変なんだと痛感した。
それから、3日が経った夕方に結からメールが届いた。
(伯父さんが斗和さん達に会いたいんだって。)
何事か?と思い屋敷に涼と尋ねた。さすがに普段着とはいかずスーツまでは、行かないがスーツに近い恰好で行った。
屋敷に着くとリビングに通され、伯父さんと結がいたが結の様子がおかしいのに気がづいた。早々に自己紹介と挨拶を終えると本題に入った。
「いつも、姪っ子の結愛がお世話になってるようで悪いね。今日、呼び出したのは相談があってね。もう、聞いてると思うが私の弟と結愛は馬が合わなくてね。この子は、物づくりが好きでね…まぁ、しかし弟は、そんなことより勉強をさせたいらしくて、この子を縛ってしまうのさ。しかしね。私は、この子才能を潰すのは勿体なくてね。そんな訳で此処に置いているんだ。」
「結愛さんから伺ってます。相談というのは…」
「相談なんだがね。ここはもともと今、留学している息子の為に建てた屋敷なのさ。私も近いうちに留学しているアメリカに3年程行く事になったんだ。そうなると結愛は実家に戻す必要があるわけだ。そうなると、また勉強づくしの毎日になるし、君たちの衣装も請け負えない訳だ。もし、君たちがその気があれば結愛と此処に住んで結愛の面倒を見てほしいんだよ。私としても、この子才能を潰したくないんでね…。どうだい?」
「俺たちに結愛さんの後見人になれということですが?」
「伯父様!そんな無理を言わないで。迷惑だよ…」
不安そうに声をあげる結に視線を合わせ笑顔を見せ、少し考えてたら、涼が声をあげた。
「自分はかまへんよ。実際、衣装作ってもらわへんと困るし一緒に暮らした方が都合ええしな。なぁ、斗和。」
「確かに都合がいい。しかし、結愛さんの家族は納得しますでしょうか。出会って間もない男2人に大切な娘を預けるなんて。」
伯父さんが腕を組み何かを閃いたようだ。
「確かに、問題はそこだ。君たちのことは私の仕事仲間の子息と紹介しておこう。そして、今回はあくまでも私の我儘で頼んでいることだ。もちろん給金を出させてもらう。月々の生活費と別に毎月16万でどうだ?もちろん、ちゃんとした契約を結んでもらう。まぁ、まずは結愛の父を口説いてからだが。」
涼と少し話す時間を貰った。
「涼・・・どう思うよ?」
「そやね、好都合やんか。しかも、給金も出るみたいやし。」
「受けるからには、いい加減には出来ないぞ。」
「そりゃ、そうやろ。わーてるわ」
改めて伯父さんと結に受ける旨を伝えると結が安心した表情になった。その日は伯父さんたちと食事をして帰った。
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