下手くそな恋を泣きながら
思い出に導かれたその先に


「彩葉、明日からの連休何するの?」


仕事終わりの休憩室、手鏡と睨めっこしながら恋人との待合せのために化粧直しをしている佳苗先輩をちらりと見て、部屋のテーブルに置かれたままの電車の切符のことをぼんやりと思い出した。



「旅行です。」

呟くように答えると、一瞬、間を開けた後で目を大きく見開きながら私を凝視する佳苗先輩。


「やだっ、彩葉、あんた彼氏できたのっ⁉」

嬉しそうと言うよりは嫌みっぽい驚きかたに反応するほど初ではない。

なんやかんや、嫌だ嫌だと思いながらこの先輩と5年もディスクを並べて仕事してるのだ。

本当に嫌だったら入社してすぐに辞めていたに違いないと、最近ようやく悟りをひらいたとこだ。


「お一人様ですよ。」もう一度呟くように答えて見せると、佳苗先輩はようやく嬉しそうに驚いた様子を見せた。


「なんだぁ。ビックリした!!そうだよね。

でもさー・・・彩葉ももう25歳なわけじゃん?早く彼氏つくんなきゃやばいよ?」


35歳で、15年付き合ってる高給取りらしい彼氏さんに未だプロポーズされない先輩にそんなことを言われてもピンとこない。



カップの中のコーヒーを飲み干した私は目尻の皺に大量にコンシーラを塗りたくってる先輩を置いて会社を出た。

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