お見合いですか?
 「お久しぶりです。まさか、林さんのお父様が常連の林さんだったなんて。びっくりしましたー。」
「愛実ちゃん。覚えててくれたのかー」
ニコニコと、久しぶりの再会を喜んでいるのは、林の伯父さんと、森高だ。

 森高は知らないだろうが、武尊食品本社で、一時期彼女は、ちょっと有名だった。
まぁ、林の伯父さんが、やたら彼女の事を褒めていたからだろう。

 5年位前に、彼女は、本社近くの“森のパスタ屋さん”で働いていた。
その時に、林の伯父さんと知り合ったらしい。
わざわざ、忘れ物を追いかけて、届けてくれたらしい。

以来、伯父さんは、会社の人間をそこに連れて行くようになった。
俺も、何度か、連れて行ってもらった。
そう、俺は彼女の事を5年位前から知っている。
でも、彼女の方は、全く覚えてないようで、俺と本社でのお見合いで会った時も、何も気づかないようだった。
 なのに、な・の・に・だ。
会ってすぐ分かるってすごくね?
いや、そりゃあ、俺に比べたら、おじさんのほうが、よく行っていたし。
俺の事を覚えているなんて、思ってなかったけど、なんかムカつく。
 
 「そう言えば、愛実ちゃんは悠斗の事、おぼ…」「そろそろ始めませんか?」
自分の名前が出てきて、慌てて遮った。
何故だろう。なんとなく、他の人の口から言って欲しくなかった。
俺は、彼女に思い出して欲しいのだろうか?
自分から、言うつもりもないのに?

 彼女が、キョトンとした表情で自分を見ている。
伯父さんが言った言葉の続きを考えているのだろう。

「いいから、早く資料を配ってこい!」
何時もより、不機嫌な声が出てしまった。
< 14 / 163 >

この作品をシェア

pagetop