お見合いですか？

　「自覚できた？」
唇が離されて、ぼーっとしてると、すぐ近くで声が聞こえた。
上がってしまった息を、整えながら、「じかく？」と呟いた。

体が少し離れて、彼と目があった。
「君にとって、俺は、上司で一緒に暮らしてるだけの人って感じだから。」

　ああ、やっぱり伝わってしまっていたんだ。
私も、失言だったと、思っている。
同棲と言われて、思わずきき返してしまった。
　何となくある、私のなかの違和感を、彼は感じ取ってしまったのだろう。
　少し悲しそうな顔にみえるのは気のせいだろうか？
「今ので、･･･自覚しました。」
そう答えると、彼は、少し笑って、「ならいい、風呂行ってくる。」と、立ち去ってしまった。

　はぁ、くたりとソファーに上半身が、倒れ込んだ。
ダメだ、あの人、心臓に悪い。
今頃、キスの余韻が襲ってくる。気持ち良かったよ、思わず自分からも求めちゃったよ。

　でも、キズ、つけちゃったよね。多分。
なんで、あんな事言っちゃったんだろう。
　だって、恋人らしい事とか、何もしてないんだもん。自覚無くてもいいじゃん。
でもなぁ、恋人らしい事を禁止してるの私だしぃ。
だから、今日は、ちょっと恋人らしくしてみようかな、と。
先制攻撃されてしまった。
まぁ、仕方が無い。夕飯の用意をしよう。

　スープを飲んでから、メインの鶏肉を食べ始める。特に、不味そうな顔はしていない。
思った通り、鶏肉は気に入ったらしく、続けてたべている。
恋人らしい事をしてみよう。と、今日の午後、思い立ち、彼が好きそうな鶏肉にしてみた。
前に、唐揚げ作ったら、喜んでたし。
唐揚げでもいいんだけど、何となく恋する女子のチョイスじゃ無いな、と思い、ソテーにしてみた。ご飯も、少し硬めに炊いてある。
まぁ、これは、自分も硬めのほうが好きだからいいんだけど。
　とにかく、今日は、彼の好みに合わせたのだ。
　以前、感想を聞かないと言ったけど、聞きたくなる気持ちは良く解る。
“美味しい”と言って笑って欲しいのだ。
でも、彼はそれを望んで無いので、我慢する。
つけていたテレビの音を聞きながら、食べ始めた。