副社長と愛され同居はじめます
「……え、でもどこで? あなたみたいな雲の上の人に出会う機会なんて」

「まだそうだとも言ってないが」

「違うとも言わなかったじゃないですか」



片手で蟀谷に手を当て指で揉みながら、記憶の中に何かこの人を思い出すとっかかりがないかを探す。
だめだ、けどどう考えたって、あるわけがない、気がする。


いや、たった一人。
たった一人だけは、この人ほどの大物ではないにせよ心覚えはあるけれど。


会ったのも数回だし、誰かと同行していたようなことはなかった。



「……誰、ですか」

「成瀬柊」

「それはわかってます!」



ってか、下の名前は今初めて覚えましたけどね!


私が何を聞きたいのかわかってるくせに、やっぱり躱される。
しかもその顔が、無表情から一転してにやにやと楽しそうで、カチンと来て思わず声を荒げてしまった。


あ、やばい。
副社長なのに。


だけど彼は私の失言にも楽しそうに肩を揺らす。
こっちは真剣なのに、とどうにも憎らしく唇を噛んでいると。


一頻り勝手に笑って気が済んだのか、ふ、と表情が無に戻った。



「つまり、金が必要。そういうことだな」

「え?」

「違うのか」

「え、いえ。そうですけど」



話が、最初に戻ってしまった。

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