副社長と愛され同居はじめます
私が寝不足だったように、彼の疲労もやはり気のせいではなかったようで。


こうして間近に見れば見るほど、疲れが色濃く見える目元。
そっと、額にかかる前髪を指で避けてみた。



「…………」



本当に私、この人と結婚するの?


実感はあるわけないけれど、冷静に考えてみればこれ以上ない玉の輿だ。
ただ、ワガママを言うならば、もうちょっと庶民的なお金持ちでも良かった、ということだけれど。


だって、どうにも普通の結婚は見込めないような。
なんか、親戚とか一族とか、庶民育ちの私には想像もつかない知らないことばかりの世界が待っていそうな気がする。



……荒川の家も、似たようなものだったのだろうか。
ここまでお金持ちではなかったはずだけど、成瀬さんは私よりは『荒川』のことを知っている、と言っていた。


私は、正直何も知らない。
たった一人、荒川の本家の人間と会ったことはあるけれど、それは思い出したくもない腸が煮えくり返る記憶だった。


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