課長の胃袋をつかみました
1.はじまりのとき

パソコンから顔をあげると島にいる人はまだらで、時計を見ると既に12時をまわっていた。
同僚に社食に誘われたけど、やんわりと断って会社を出た。
こんなにいい天気なのだから、今日は外で食べると決めていた。
いつものカフェでコーヒーをテイクアウトして近所の公園に向かう。
4月の初め、公園は桜が満開でベンチでお昼を食べている人も多い。
空いているベンチを探していると、ふと見覚えのある人物を発見した。

「課長、おつかれさまです。課長もここでお昼ですか?」
「茅野か、おつかれ。いや俺は腹減ってなくてさ、気分転換も兼ねて外でコーヒー。」

そう言って課長はコーヒーをすする。
課長は32歳の若さで課長に昇進した我が社のホープで、イケメンなのに仕事もできるという超優良物件である。
つまり女子社員からモテモテである。
私もかっこいいなぁとは思うけど、同じホープなら塚田先輩の方がいい。
塚田先輩は私の教育係で入社当時たくさん助けてもらった。
今は次の昇進候補の筆頭で、課長と同じでモテモテである。

「茅野、弁当?ベンチ残ってないからよかったら隣座る?」

ぼーっと考え事をしていたらベンチはなくなってしまったらしい。
今から会社に戻ったら大幅なタイムロスなのでお言葉に甘えることにする。
お弁当を広げると、課長は興味津々にお弁当をのぞいてくる。

「へー、茅野料理うまいんだな。玉子焼きうまそうだなぁ〜。」
「いいですよ、食べますか?」
「やったね。いただきまーす。」

課長は玉子焼きをひょいと口に入れた。
今日のはうまくできたと思ってるけど、やはり課長が食べるとなると不安である。
……………反応なし?
課長は黙りこくって何も言わない。
もしかして変な味した!?
1時間とも思える沈黙の後で課長が小さな声でつぶやいた。

「………しよ…。」
「はい?」

小さすぎて聞き取れず、聞き返したところいきなり肩を掴まれ、真剣な顔で課長は驚愕の一言を言い放った。

「結婚しよう!」

暖かな春の風が吹き抜けていった。


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