課長の胃袋をつかみました
火曜日に決行を開始したお弁当大作戦だったが、結局週末の今日金曜日まで成功することはなかった。

課長はシンガポール出張の影響もあり、今週はずっと慌ただしくデスクにいないことが多かった。
聞けば私とデートをした次の日の日曜日、シンガポール支社にてトラブルが発生したために、課長は休日返上でシンガポールへ駆けつけたらしい。

改めて課長の忙しさを実感して、なんだかお弁当を渡すためだけに引き止めるのは気が引けてしまう。
そもそも頼まれてもいないのに作ってきたお弁当なのだから。

ということでその週のお弁当は全て塚田先輩の胃袋へと収まった。
これでは塚田先輩のためにお弁当を作ってきているような状態である。

その日も例の公園で2人でランチタイムを過ごしていた。
先輩は本日のメインである肉団子の中華風に夢中である。

「あの、先輩。やっぱり私お弁当作るのやめようかと思って。」
「あー、俺から提案しておいてなんだけど、結局ずっと俺のためにお弁当作ってきてくれてた感じになっちゃったしねぇ。」

先輩は申し訳なさそうに笑った。

「先輩は何一つ悪くないです。私がタイミングが悪くて意気地が無いだけです。」

「じゃあ、これが最後のお弁当かぁ。残念だな。すっかり茅野さんに胃袋つかまれちゃったよ。」

昔の私ならこのセリフにときめいて仕方がなかったと思うけど、今の私はやはり少し変わってしまったらしい。

「すみません。ただ私の勝手で振り回したような形にしてしまって。」

私は先輩に丁重にお詫びをした。

「いいよ、俺は美味しいものが食べられて幸せだったから。何かお礼をしないといけないな。
そうだ、今晩食事でもどう?」

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