課長の胃袋をつかみました
何か適当に飲み物でも買うかと思い、コンビニに足を踏み入れると、聞き慣れた声がした。

「おお、茅野。おつかれさん。」
「か、課長。お疲れ様です。」

つい先ほどまで考えていた人が目の前にいたために心底驚き、きょどった態度をとってしまった。

そんな私の様子を見て課長は不審そうにしたあとにハッとしたと思うと急ににやけ顔になった。

そして私に近づき耳元に口を近づけ

「この前のキス、思い出したか。」

私は途端にボッと火がついたように赤くなった。

「な、な、な、何を言ってるんですか!!」

課長の方を見て小声で抗議したが、課長は耳まで赤くなっちゃってかっわい〜とどこ吹く風である。

私はもう知らない!も課長を無視してドリンクコーナーに移動し、ムカムカするから甘いものでも飲みたい!とアイスココアを購入した。

コンビニを出ると課長が待っていた。
てっきり先に行ったかと思ったのに。

そんな些細なことがなんだか嬉しくて、自身の感情の変化に少しついていけないと思ってしまった。

課長はまだしばらくニヤニヤしていたが、ふと
私が持ってるランチバッグを見て不思議そうに聞いてきた。

「今日の、なんかデカくね?弁当箱2つあるじゃん。」

ぎくっ。
さあっと冷や汗が流れるような感覚に襲われた。

明らかに昼休みも終盤で2つお弁当箱を持っていたら誰かのために作って一緒に食べていたということがわかるだろう。

塚田先輩と食べていた、ということは絶対に知られてはいけないような気がして、私はとっさに同僚のミキと食べたと嘘をついた。

ミキは同じ会社と言えど部署が異なるから、課長に言ってもきっと動向まではわからないはず。

課長はふーんとつぶやいたが、私はなんだかいたたまれなくなって、急ぎの仕事があった!という言い訳をして先に会社へと走った。

だから課長が何か思案顔をしているのに気づくことはできなかった。

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