夢物語【完】

「青山様、お待ちしておりました。席までご案内致します」

中塚さんの知り合いである店長の木藤さんが出迎えてくれて席まで案内してくれる。
スマートで余計な動作がない素敵な木藤さんはあたしの椅子を引いて座らせ、高成の後ろに回って椅子を引いて座らせた。

「特別な夜に当店にお越し頂き誠にありがとうございます」

そう言って頭を下げ、違うウェイターさんが持ってきてくれていたワインを開けてくれた。

「あ、サンタとトナカイ!」

ワインを運んできたワゴンの上にはサンタとトナカイのぬいぐるみ。
ファミリー向けのこのお店では子供が多いから置いてるんやろう。
二つのぬいぐるみが可愛く寄り添ってる。

「涼さんが好きそうだと思って用意させて頂きました」
「え、ほんまに?!」

あたしが好きやと思って乗せておいてくれたらしい木藤さんに感激の視線を向けると「子供扱いされてるんだぞ」と高成の嫌味が聞こえた。

「可愛いからって純粋に喜んで何が悪いんよ」
「それが千秋と変わらないって言ってるの」

さっきから何かと嫌味ったらしい言い方に腹が立つ。
そんなあたし達に木藤さんは何も言わんと、くすくす笑うだけ。

そりゃ大人の男性からしたら子供の喧嘩にしか聞こえんやろう。
思わず恥ずかしくなって俯くしかなかった。

「お待たせ致しました。前菜のサラダになります」

違うウェイターさんが前菜を持ってきてくれて、気まずい空気はとりあえず一掃された。
木藤さんも下がって、二人だけの食事の時間。
高成がグラスを持つからあたしもグラスを持って小さく乾杯。

高成が視線をホールに向けるから同じように向けると木藤さんが立っていて目が合った。
あたし達は木藤さんにもグラスを上げると優しく微笑んでくれた。

「あ、ニンジンがハート型になってる」

店内もそうやけど、ディナーもクリスマス仕様で普段はない野菜にアレンジを加えてる。
クリスマスカラーやったり、形やったり、特別な日やから料理が着飾ってる。

「可愛いね」
「そうだな」

無言で食べ続ける高成に可愛く話しかけてみたけど、返事は素っ気ない。
歳を考えても無理があるやろ!って思いながらも可愛く首を傾げてみようが反応ナシ。

せっかくのクリスマスやのに不機嫌な高成に浮かれてたあたしのモチベーションとテンションは下がる一方。
今日はどこかで一泊する予定やのにこのままじゃ全然楽しめそうにない。

毎年のことやけどプレゼントもどうしようか散々悩んだ。
高成が欲しいものは値段が高すぎてあげられへんから小物をプレゼントしてたけど、それも出尽くした。

あたしに関しては特に欲しいものがないから毎年綺麗な花束を貰ってる。
それも毎年違う花で部屋に飾っても綺麗で、それだけであたしは嬉しい。

・・・で、今年の高成へのクリスマスプレゼントなんやけど、最低やとは思いつつも買えんかった。

最近レコーディングで忙しくて家にもあんまり帰ってこんかったし、クリスマスは空けてくれるって聞いてたものの何が欲しいか聞き忘れて、結局今日を迎えることになって買えずじまい。
それもあって、今から高成が不機嫌でおられるのは困る。

あたしのせいで不機嫌やのにクリスマスプレゼントも無いってなったら最悪な一夜になるに決まってる。
今から後悔しても遅いけど、なんで買わんかったんやろう?!と後悔。

高成がお手洗いで席を立ったとき、どうしようかと不安になって溜息吐いてると「料理はお気に召しませんでしたか?」と木藤さんが声を掛けてきてくれた。

「あ、違うんです!料理はいつも以上に美味しかったです。その、高成にプレゼントを買ってなくて…しかも不機嫌なんですよ。だからどうしようか悩んでたんです」

言うてもしょうがないことを木藤さんに打ち明けると、「そうですか。でも、」とさっきと同じ優しい笑顔を向けてくれた。

「私には緊張しているように見えましたよ」

小声でそう言うと「失礼します」と何事もなかったかのように空いた皿を提げてホールへ戻っていってしまった。

木藤さんの言葉に首を傾げていると高成が戻ってきて「どうした?」と尋ねてきた。
その表情を見ると・・・うん、やっぱり不機嫌な表情で、とても緊張してるようには見えん。

一体、木藤さんには高成がどういう風に見えてるんやろうと不思議で仕方なかった。
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