八色(やいろ)の虹 ~君らしく僕らしく~



白は俯《うつむ》いた後、

おもむろに顔を上げて

赤と青に向かって両手をついた。

「赤さん、青さん。

今日はお願いがあって参りました」

「やだなあ、白さん。頭を上げて下さい。

どうされたんですか?」

色世界の重鎮《じゅうちん》が頭を下げた事に

青は困惑《こんわく》しているようだ。

「いやね、あなた方が羨《うらや》ましくて。

是非わたしも虹のメンバーに

入れていただく訳にはいきませんでしょうか?」

「虹……ですか?

あの雨上がりの辛《つら》い仕事の虹ですか?

やめた方がいい。かなりの重労働《じゅうろうどう》ですよ」

「それでもいいんです。

我々白は脚光《きゃっこう》を浴びた事がないんです。

そりゃ確かに運動会や結婚式には欠かせない色ですよ。

でもね、我々白は主役になった事がないんですよ。

いつでもただのベース色なんです。

子供たちが絵を描く時だって

我々白の上に赤や青の絵の具を付けてしまい、

我々は残った余白でしかアピールできないんです。

要するにいつも皆さんの引き立て役なんですよ」

赤はなるほどといった様子で頷いている。

「我々七色の虹職人の中に欠員が出れば

お願いしたい所なんですが、

きつい仕事のわりに皆この仕事に

誇りを持ってますからね。

子供たちの喜ぶ顔を見るとやはり嬉しいもんでね」

青は赤の話にうんうんと頷《うなづ》いた後、

空の異変に気づき天を仰《あお》いだ。

「おや? さっきまで白かった雲が灰色になってますね。

こりゃ、一雨きそうですよ」

すると白が申し訳なさそうに頭を

ポリポリと掻《か》いた。

「ああ、すみません。

わたしがこんな所で油を売っているもんですから、

雲が灰色さんに取られてしまったようですね」

「白さん、お気になさらず。

赤さん、雨がやんだら一仕事《ひとしごと》しますか。

でっかい虹を作りましょう。

僕はみんなを呼んできますのでここで待っててくださいね」

青はそう言うとピーと指笛《ゆびぶえ》を鳴らした。

すると真っ青な絨毯《じゅうたん》が

灰色の雲を引き裂き飛んできた。

青は絨毯にひょいと飛び乗ると

太陽を塒《ねぐら》としている橙《だいだい》のもとへと

向かっていった。
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