八色(やいろ)の虹 ~君らしく僕らしく~


「橙さん、仕事だよ。集合集合。

いやあ、しかしここはいつきても暑いね」

「おう、青さん。了解だよ。

すぐ行くから待ってておくれ」

そして青はひまわり畑へと向かう。

「おーい、黄色さーん」

「あら、青さん。どうしたの?

おや? 青さんの絨毯《じゅうたん》

少し焦《こ》げてやしないかい?」

「ははっ! さっき橙さんの所へ行ってたから

少し焦げちゃったみたいだね。

それより黄色さん、仕事だよ。

また日本中の子供たちの笑顔が見られると思うと

わくわくするね」

「あいよ! 今わたしに付いている

蜜蜂《みつばち》さんが飛んでったら

すぐ行きますから待ってて下さいな」

そして青は森へ向かっていった。

夏が大好きな緑は橙さんの日差しを受けながら

木の上で昼寝をしていた。

「緑さん、起きて。仕事だよ」

緑は眠い目をこすりながらむくりと起き上がった。

「青さん、分かりました。すぐ行きます」

「緑さん、二度寝なんてしないでね。

僕は今から藍色さんと紫さんを呼びに行ってくるからさ」

そう言って絨毯を走らせた。

青が次に向かったのは、

徳島県にある藍染《あいぞ》め工場である。

「藍色さん、今からでっかい虹の橋を掛けるから

急いで集合してくれる?」

「あら、青さん。

徳島は雨なんて降ってなかったから

今日は召集されないと思ってね。

今ちょうど繊維《せんい》を染めてあげてる最中なんだよ。

これが終わったら飛んで行くから待ってておくれ」

「しょうがないなあ。急いでね」

そして最後に向かったのは山梨県にある

葡萄《ぶどう》畑である。

「紫さん、仕事だよ。今から集合……。

あれ? 紫さん、顔が真っ赤だけど……」

「ヒック……。あら、青さん。

何か用れすか? ヒック。ウー……」

「『用れすか』じゃないよ。

紫さん、ろれつ回ってないですよ。

自分で作ったワインを飲んで酔っ払っちゃったのかい。ハァ!

その状態じゃ虹なんて作れないですね。

他の紫さんをあたりますからゆっくり寝てて下さいね。

でも次回は頼みますよ! まったく!」

青は呆《あき》れ顔で絨毯を走らせた。

「どこの紫さんに頼むかな。

しょうがない、千葉に行くか」

ぶつぶつと独り言を呟《つぶや》きながら

千葉県の内房にある

有名な暴走族《ぼうそうぞく》の所へ向かっていった。

青は恐る恐るそこにいた紫に声をかける。

「あ、あのう……。紫さん、虹を掛けたいんですが

ご協力いただけませんでしょうか?」

「あん?」

紫はそう言って青に睨みをきかせた。

「ヒャー! なんでもありません。失礼しました」

青がおそれをなして帰ろうとした時、

「おう、青さんじゃねえすか。ウッス!」

海を塒《ねぐら》にする青は、

暴走し過ぎて海へ転落した紫を助けてやった事がある。

それ以来この紫は青に頭が上がらないのだ。

「ああ、君か。良かった。

恩着《おんき》せがましく言う訳じゃないけど、

今からでっかい虹を掛けるんだ。

協力してくれないか」

「青さん、水くせえっすよ。

そんな事ならいつでもお手伝いしますぜ。

四六死苦《ヨロシク》っす!」

「いやあ、紫君。ありがとう。助かるよ」

紫には少し不安が残るものの、

青は最強のメンバーを揃えたのだ。
< 4 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop