クールな同期と熱愛はじめ

彼は驚いたような顔をして「どうしたの、悠里ちゃん」と、そばに駆け寄ってきた。
口が利けるまでに、必死になって呼吸を整える。


「……桜木くん、どこに行ったんですか?」

「司、どこかに行ったの?」


間宮さんはポカンと口を開けた。
つまり、なにも聞いていないということだ。
間宮さんなら彼の行き先を知っていると思っていたのに。


「とにかくこっちに座って」


肩を支えられながら、カウンター席へと座った。

出してもらった水をひと思いに飲み切った後、間宮さんに経緯を話す。
桜木くんが会社を辞めたこと、マンションを引き払ったこと。
ひとつひとつに驚きながら聞くということは、間宮さんは本当になにも知らないのだ。
知っているのに、敢えて隠しているようには見えなかった。そこまで演技が上手とは思えない。


「悠里ちゃんになにも言わずに消えるとはなぁ。司もどういうつもりなんだろう」


間宮さんは、カウンターの中で腕組みをして考え込んでしまった。

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