クールな同期と熱愛はじめ

胡桃は人差し指を立てて、こともあろうか笑顔で言った。
笑って言うようなことじゃないだろう。しかも、察しがよすぎる。それなら最初の“キス”というボケはなんだというのか。

普段からおっとりとした胡桃は私とは同期で、入社式で席が隣り合ったことがきっかけで仲よくなった。
肩より少し長い栗色の髪は、くせ毛を生かしてふんわりとしており、色白な肌に目鼻立ちのはっきりした顔は、フランス人形のようにかわいい。

ただ、胡桃によれば、かわいい女よりはかっこいい女になりたいそうだ。
『悠里みたいなクールビューティーに生まれたかった』なんてよく言うけれど、私のどこがそうなのか、いまいちわからない。

ちょっとピントが外れている“天然”ちゃんだけれど、意外と面倒見がいいものだから、後輩から慕われている。
その上、ふわふわとした雰囲気に似合わず、経理課に所属する彼女は数字にかなり強い。
簿記も早々に一級を取得し、将来の課長候補だとも言われているのだ。

設計部で一向に芽が出ない私にとっては、羨ましくもあり尊敬すべき友人である。

胡桃の質問に黙ったまましかめっ面をしていると、彼女は私の頭をよしよしと撫でた。


「今日の運勢は一位だったのに」


さばの味噌煮定食をテーブルに置き、私は脱力したように椅子に座った。

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