部長が彼になる5秒前
そこから、絢とどう別れて、帰ってきたのかよく覚えていない。
購入した髪飾りが、紙袋の隙間から虚しく光っているのが見える。
思い出すのは、さっき目にした2人のことばかりで。
ぼんやりと膝を抱えていると、私の携帯が鳴った。誰からの着信であるかも確認せず、私は通話ボタンを押した。
「もしもし、佐野?」
耳に聴こえてきたのは、橘の声だった。
当たり前だが、部長では無いことに少しほっとする。
「橘、どうしたの?」
そう尋ねる私に、橘はおずおずと答えた。
「この前言ってた、花火デート。
あれってまだ?」
「まだ、だけど……。どうして?」
何故、今、そんなことを聞いてくるのか。
私は回らない思考で考える。