along

「わ、私のお給料より高い?」

「それは……うん」

「ボーナスより?」

「どのくらいボーナス貰ってるか知らないけど……多分」

やっぱり……ドミノに使うようなものではなかった。

今さらながら顔をこわばらせる私に、直は事も無げに言う。

「駒はどんどん使った方がいいよ」

「使い方ってあるじゃない!」

「いいんだよ。楽しかったんだから」

つるりと滑らかな表面には、力強い文字が光っている。
途端に指紋をつけるのすら怖くなって、持たずに“歩兵”を指さした。

「これ一枚で何回食事できるんだろう」

「一枚だけあったって使えないんだから、価値ないんじゃないかな」

「『有坂行直愛用の駒』ってメモ書きつけても?」

「価値が上がる理由にはならないね。俺、今のところ無冠だから」

直の駒はやわらかく明るいクリーム色で木目もほとんどない。
駒は木目の入り方で人気が左右されるそうで、価値もかなり変わるらしい。
おじちゃん自慢の駒にも木目があり、もっと重厚感があった。

「木目もないし淡白な感じの駒なのに、どうして高いの?」

「木目が入ってないこれも、棋士の間では人気なんだよ」

「なんで?」

「見やすいから」

確かにとても見やすい。
格調は高いけれど、デザインとしてはプラスチック駒にとても近いものだった。
高かろうが安かろうが、使いやすさ重視で駒を選ぶところが、とても直らしいと思った。
これまで私が見てきた直も、棋士の有坂行直も、間違いなく同じ人だ。

そうっと駒を持ち上げると、直が使っていると思うせいなのか、ほのかな体温を感じるようだった。
そんな私の急激な変化に苦笑いしながら、直はスッと駒を持ち上げてパチンと盤に置いた。

ああ、やっぱりいい音。

失礼して真似してみるけど、

ベチッ!
駒や盤の問題ではなく、扱う人間の問題だったことが証明された。

「駒の持ち方なんて知ってたの?」

私の手つきの変化に、直は目を見開いた。
勉強の成果を示せて、私も貧相な胸を張る。

「駒の動かし方もわかるよ」

「へえ~、すごい!」

「えへへ、これで直と対局できる? どんな感じなのかな?」

直は手で口元を覆って吹き出すのを堪えているけれど、声が震えていた。

「……耳掻き一本で軍隊に突っ込む感じじゃないかな」

「バカなこと言ったって、よーくわかった!」

「ごめん、ごめん! でも動かし方わかっただけじゃ対局なんてできないよ。少なくとも詰め方くらいは知ってもらわないとね」

“詰める”というのは玉の逃げ場を奪うことなのだけど、今の私では自爆するだけらしい。
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