クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
そうか、とようやく私は理解した。
5つまで一緒に暮らしたお母さんが、どうしてめったに外に出なかったか。
隠れるように息を潜めて暮らしていたのは……きっと見つかりたくなかったんだ。
お母さんの出身である加納家は県をいくつも跨ぐほど遠い。だから、見つかることもなかったんだろう。
曾おばあさまは自分のせいと涙を流してる。確かに、彼女が勧めた縁談が理由でお母さんは行動を起こしただろう。
だけど……
「あの……申し訳ありませんが、母をあまり不幸と思わないでください」
「……夕夏さん?」
下手な慰めをするよりも、真実を知って欲しくて口を開いた。
当然曾おばあさまは困惑気味だけれど、私は構わずに話を続ける。
「確かに母と私はひっそりと二人で生きてました。だけど……二人きりでもしあわせでした。あまり豊かとは言えない生活でも……ちゃんと笑えて暮らしてました」
“しあわせだったんだな。なら、おまえの母は素晴らしいひとだった。どんな生活だろうが、子どもを笑顔にできる親は最高の親だ”
葛城さんがあの時に言ってくれた言葉が、じんわりと胸を温かくしてくれる。
初めて、お母さんを認めてくれたひと。
実の肉親でさえ不幸だったと悲しむお母さんの短かった人生を。生きた時間を。しあわせだと認めてくれたんだ。
「……不幸では、ありませんでした。最後にはちゃんと愛する人もいて……しあわせだったと思います。たとえ哀しい最期でも……私だけは、そう思いません」
きっぱりと、三辺さんと曾おばあさまに言い切った。