君にまっすぐ
基本的に早朝から夕方までの勤務であるあかりは仕事が忙しく、夜遅くまで働いている孝俊とは朝会うことが多い。
そして、わりと頻繁に朝帰りの女性たちを家まで送り届け、またオフィスへと戻ってくる孝俊の姿を目撃している。
しょっちゅう女性が変わっているような気がするが、いつも仕事をこなしながらもオルディさんに集中してしまっているので、特に気にしたことはなかった。
もちろん、孝俊の容姿が素晴らしいこと、ビルのオーナー会社の御曹司であることはそういったことに疎いあかりであってもさすがに知っている。
そう、ただ知っているだけ。
普段は人のことを悪く言わないあかりもちょっと軽い人なのかな?と思ってしまう人、ただそれだけだ。

あかりの好みのタイプは軽トラだ。
は?オルディはどうしたの?という感じだが、それはそれ、これはこれだ。
オルディはまさにテレビや舞台、コンサートで見る俳優やアイドルだ。
軽トラは実直で、素朴で、ちょっと田舎くさい所が心を落ち着かせてくれるようなホッと出来る存在。
恋愛対象としても、一緒にいて安らげる人、素をお互いにさらけ出せる人、それこそ軽トラの荷台で星を見ながら一晩中でも語り合える人、そんな人が理想だ。
だから、これまで好きになった人もクラスメイトだったり、バイト仲間だったり、その人の人となりがわかった上で好きになった人ばかりだった。

大学を卒業の時に別れてしまった元カレ、野島賢介も真面目なバスケットボールサークルで同じだった同期だ。
学部も学科は違うものの同じ工学部で共通の話題も多かった。
同期として2年過ごし、3年の春から付き合いだした。
2年交際し、あかりは就職、賢介は大学院進学と進路が別れ、卒業前の忙しさの中ですれ違ってしまい、相手のことを考える余裕がなくなってしまっていた。
更に賢介は異動する教授について関西へと引っ越してしまうことになり、お互いに遠距離で続けていくことに意味を見出せず、納得して別れた経緯がある。

就職してからは車たちに囲まれて心は満たされる中で、特に出会いもなく、交際相手はいなかった。
たまにふとしたときに、賢介は元気かな?と思い出すことはあったが、それは恋しさと呼べるものでもなかった。
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