君にまっすぐ
タイプは軽トラ
孝俊と当り障りのない挨拶しかしないようになってから1ヶ月。
お盆を過ぎても続く厳しい残暑の中、あかりと孝俊に変化はなく、この先もこの関係が続いていくのだろうと漠然と思うようになっていた。

いや、あかりには変化があった。
新しく白オルディさんがやってきたのだ。
孝俊の乗る黒オルディさんとユニットを組み、車2台が並んで走ったり、激しいカーチェイスを繰り広げたら最高だ、いう妄想を繰り広げている。
白オルディに乗るのは隙の無さを感じる孝俊とは違い、どこか犬っぽい優しい雰囲気の甘い顔をした若い男性だった、ら余計盛り上がるものだが、そうそう都合よくいくものではなく60代のおじ様だった。
まぁ、ある意味犬っぽい優しい雰囲気はあるのだが。

そんな妄想をしていた日々の中で1通のメールが届いた。

『久しぶり。
 ただ今、丸井製薬に就職して全国各地で研修中。
 9月から本社に本配属になったから、東京に戻る。
 よかったら飯でも一緒に行かないか?』

元カレ、野島賢介からだった。
大学卒業と同時に別れてから、お互いに1度も連絡をとったことはなかった。
喧嘩別れでもなかったので電話番号もアドレスも消してはいなかったが、それは賢介も同じようだった。

『久しぶり。
 遅くなったけど就職おめでとう。
 丸井製薬に決まるなんてさすがだね。
 休みはシフト制で毎週違うけど、仕事は基本6時まで。
 それ以降の時間だったらいつでも大丈夫だよ。』

別れて距離が遠くなっても嫌いにはなれず、どうしているかなと思うことはよくあった。
特に初めの方はわりと頻繁に思っていた気がする。
別れたあとの感傷だったのかもしれないが。
最近は思い出すこともなくなっていた。
そういえば、孝俊と会うようになってからは1度も思い出してなかったなと気づく。

『じゃあ、土曜日でもいいか?
 平日だと余裕が無いかもしれないから。
 9月中であかりの都合のいい日を送ってくれ。』

『それなら、12日かな。
 次の日曜は休みだから、お酒ありでいいよ。
 相変わらず弱いからあんまり飲まないけど、色々と話聞かせてよ。
 久しぶりに会うの楽しみにしてるね。』

『おう。
 俺も久しぶりに会うの楽しみだ。
 じゃあ、店と場所はまた連絡するわ。』

賢介は穏やかで優しそうな雰囲気をもつ学業優秀な青年だった。
運動神経も良くバスケサークルでリーダーを任されるような人だった。
そんな華やかそうな経歴とは逆に中国地方出身でどこか垢抜けなさがあり、でもそのことを本人が全く気にしておらず堂々としている強さも併せ持っていた。
そして、あかりは賢介のそんなところが好きだった。
賢介と一緒にいるときは落ち着けてとても癒やされていた。

別れたのもお互いに忙しさに余裕がなくなりすれ違ってしまったからだ。
遠距離恋愛までして続けることはできなかったが、再び会ってなにか感じるものがあるだろうか?
この2年でどれだけ成長しているのだろうと会うのが楽しみだった。
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