君にまっすぐ

「あかり！」

待ち合わせをした駅の改札口で賢介があかりに声をかける。

「賢介！久しぶり。」

就職したからか少し大人びた顔になってはいたが、賢介の持つ雰囲気は前と変わっておらず、懐かしい気持ちでいっぱいになり、自然と笑顔が出てくる。

「就職して、３年目にもなると大人の女性という感じだな。きれいになった気がする。」

「ちょっと！気がするって何よ。きれいになった！でしょ！？」

「ははは、きれいになってもこの食い気味に来る感じ、中身は変わってないな。」

賢介の言葉にあかりは若干頬を膨らませる。

「変わってなくて悪かったわね！人はそんなに簡単には変わらないわよ。」

「いや、変わってなくて嬉しい。」

以前と変わらない穏やかな笑顔であかりを見つめる賢介にあかりも笑顔に戻る。

「賢介もちょっと大人になったけど、そういうところ変わらないね。」

２人で笑いながら言葉を交わし、店に移動した。



「え？ここ？」

あかりは思わず笑ってしまう。

「そう。やっぱりここがしっくりくるだろ？」

「確かにね。」

付き合っていた時によく２人で来たチェーンの居酒屋だった。

「一応社会人だし、就職祝いにおごるからもっといいところでよかったのに。」

「あはは。予想通り。」

「何が？」

「あかりなら就職祝いにおごると言いかねないと思ってた。」

「え？だからここなの？そんな気遣いいらなかったのに。」

「俺がおごるって言っても頑なに自分で払うか良くて割り勘になるだろうと思ってね。ほら、俺あかりの事よくわかってるから。」

笑いながら得意気な顔を見せる賢介に悪い気はしない。

「本当によくご存知なことで。そこまでわかってるなら、今日は就職祝いで払う気まんまんで来たから私に払わせてね！」

「それは却下だな。」

「なんでよ。」

「俺、あかりの就職祝いなんてしてないから。あかりだけから受け取れないだろ。だから今日は割り勘です。」

「…わかった。」

あかりを納得させたことで満足そうな顔を見せる賢介をみると頑なになりかけていた気持ちがほぐれてくる。
やっぱり賢介といると楽しいし、落ち着くなとあかりは思った。