君にまっすぐ
「あかり!!」

思わず駆け出し腕を掴んでしまった。

「え!?孝俊さん!?」

あかりは急に現れた孝俊に振り向き驚きの声をあげる。




新しいアウトレットモール建設のため取引先と会食を終えてロータリーで社用車から降りると、ビルの近くを男と歩くあかりが目に入った。
ただの友達だろうと自分に言い聞かせ、まだ残っている仕事を片付けようと秘書と共にオフィスに戻ろうとしたところで、ほんのり赤い頬をした笑顔で男を見上げるあかりとそれに見惚れる男の姿がビルの明かりに照らされてはっきりと認識できた。
それを見た瞬間、孝俊は理性で行動を押さえることができず、あかりに駆け寄り腕を掴んでいた。

「急にどうしたんですか?孝俊さん。」

「君が、笑顔だったから。」

「え?」

「他の男にそんな笑顔を見せないでくれ。」

「どういうことです?」

「俺にはもうそんな笑顔は見せてくれないのに。」

「ちょ、ちょっと、落ち着いてください。」

興奮したようにあかりに訴える孝俊をなんとか落ち着かせようとするが、孝俊は聞いていない。

「この男誰なの?この男のことが好きなのか?」

未だにあかりの腕は掴んだまま、孝俊が賢介に目をやりあかりに問いかける。

「俺はあかりの元カレですよ。どうもはじめまして、野島と言います。で、あなたは誰です?」

それまで傍観者として様子を眺めていた賢介があかりの代わりに返事をする。

「元カレ?」

「そうですよ。一緒に食事をしていたんです。で、あなたは…あかりのお友達ですか?」

賢介はいつもと同じような穏やかな笑顔だが、目つきは鋭い。

「あ、そう。こないだ話した友達の武堂さん。」

今度は孝俊の代わりにあかりが答える。

「やっぱり、あのお友達か。」

賢介は納得したように鋭い眼差しで孝俊を見つめている。

「で、お友達の武道さんがどうされたんです?」

「元カレって、あかりはこいつとよりを戻すのか?」

孝俊は賢介の様子に少し冷静になったが、あかりに聞かずにはいられない。

「いや、それは…。」

「よりを戻すかどうかどうしようかと話しているところですよ。今後の結婚も視野にいれてね。」

言いよどむあかりに代わって賢介が問いに答える。
結婚という言葉に孝俊は目を見開き、動きが止まる。

「それが、お友達の武堂さんに何か関係ありますか?」

賢介の刺のある言い方に孝俊は賢介を睨みつけた。

「関係はないかもしれないが…。あかりはどうするつもりなんだ…?」

先ほどまでの勢いが弱まり、震えだしそうな声であかりに問いただす。

「私は…、真面目に賢介とのことを考えようと思ってます。」

「こいつが軽トラだからか?」

「そうですね、軽トラだからです。」

賢介は軽トラ?と思いながらも2人のやりとりを見守っている。

「軽トラで本当にいいのか!?」

「どういうことです?」

「もっと華やかさが欲しくなるかもしれないだろ!?」

「そんな!軽トラをバカにしないで下さい!」

「バカになんてしていない!ただ、オルディはどうなるんだ!?」

「今オルディは関係ないでしょ!オルディはオルディですよ!」

「あくまでもタイプは軽トラだと言いたいのか!?」

「そうですよ!私は落ち着いて素のままでいられる相手と一緒にいたいんです!」

「だったら、俺でもいいだろ!?」

「はぁ?」

「俺といる時だって君は素のままだったじゃないか!」

「それは友達だからでしょ!?それに孝俊さんと一緒になんていられるわけないでしょ!なんでそんなこと言うんですか!」

「でも、俺はあかりと一緒にいたい!」

「だから!自分の立場わかってます?もうこれまでのような友達付き合いは出来ないって言いましたよね?」

「あぁ、もう友達ではいられない。」

「わかってるじゃないですか!」

友達ではいられないという孝俊の言葉があかりの胸を刺す。
もう友達の関係も終わりかと悲しさが襲う。

「俺はあかりが好きなんだ。だから、友達のままではいられない。いや、いたくないんだ。」

「!!」

いきなりの孝俊の言葉にあかりは狐につままれたような顔をして孝俊を見つめている。
5秒ほどだろうか、そのまま見つめ合っているとあかりは眉間にしわを寄せ始め厳しい顔つきになった。
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