次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
「ありがと。気をつける」

軽く体を引いて距離を取ると、何か言いたげな駿介から視線をそらせる。「何か食べる物をもらってくるね」とその場を離れながら、さっき聞いたばかりの事実を必死に受け容れる。


甘えちゃダメだ。駿介は夏希さんとお付き合いしてるんだから、甘えちゃ絶対ダメだ。


切ない恋に区切りをつけて、前に進んだ夏希さんが選んだのは駿介。当然だ、だって駿介は素敵だもん。頼り甲斐があって、優しくて、仕事も出来て、責任感が強くて、ユーモアもあって、ルックスだって良くって。そんな人が身近にいて、惹かれないわけがない。

綺麗で大人な夏希さんと並んだら、駿介ときっととてもお似合いだ。駿介だって夏希さんとなら幸せになれる。だから私なんかが甘えちゃダメだ。

早足で歩きながら、浮かんでくる涙を何度もまばたきして、必死に紛らす。


駿介なんて俺様で、我が儘で、強引で、口が悪くって、意地悪だから、きっとすぐに忘れられる。他に好きな人がすぐに出来る。


「そうよ、あんな偉そうで、ぶっきらぼうで、人を振り回して、いつだって見守ってくれる人なんて‥‥すぐに好きじゃなくなるんだから」
< 132 / 217 >

この作品をシェア

pagetop