次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
蛇に睨まれたカエルってこんな気持ちなんだろうか?背中に嫌な汗が流れる感覚以外全ての感覚が遠のいて、頭は思考停止だ。

「大丈夫よ、文香さんが敏彦さんのところに来てくだされば何の問題もないのだから」

ドクドクと心臓の音が頭に響く。どうしたらこの話を拒否できるか考えなきゃいけないのに、思考がちっとも働かない。

「あ、の‥‥私、仕事があるのでこれで失礼します」

防衛本能か、ようやく出たのはこの場から逃げる言葉だけ。唐突なセリフでも、睦子叔母は戸惑う事なく、鷹揚に頷いた。

「そういえば、お時間がないんだったわね。話も済んだから帰っていいわよ、ご苦労様」

「はい‥‥あの、失礼します」

「ああ。今夜にでも敏彦さんからお電話がきますから、必ず出るように」

椅子から腰を浮かせた私に、睨め付ける視線と鋭い言葉の矢が刺さる。

「傍流のあなたごときが敏彦さんに見染めてもらえるなんて、幸せな事なんですから。それを忘れないように。
それに駿介さんのためにも植田さんのお嬢さんのためにも、駿介さんとさっさと距離を取らないと。邪魔者だって分かってるでしょう?」
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