次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
逃げられない気持ち
午後の始業にはまだ余裕があったけれど、余計な事を考えたくなくて、戻るなりすぐに仕事を始めた。

「文香ちゃん?ちゃんとお昼食べてこれた?」

バタバタと仕事を開始させたのを見て忙しいのだと心配してくれた幸恵さんの言葉にも曖昧な返事を返すだけ。
指はキーボードを叩くのに、頭の中は「なぜ」と「どうしたらいいんだろう」だけがリピートしている。

なぜ睦子叔母さんは急に私と敏彦さんを取り持とうとするのだろう?回避するためにはどうしたらいいんだろう?

仮に私が逃げても、佑のアルバイトは涼介君の紹介だ。働くのを断られる事はないだろう。蔵本の父の会社だって、小さいとはいえ國井のグループ企業なんだからよっぽどの事はされないはずだし、いっかいのサラリーマンである父に直接的なダメージはないだろう。

楽観的な考えが浮かぶと同時に、睦子叔母のヘビのような粘着質な視線を思い出して身体が震える。

アルバイトはさせてもらえても、敏彦さんが横槍を入れたら、希望する研究関係の仕事は出来ないだろうか?ランドホテルとの取引のミスを蔵本の父がかぶらされたら、どうなるだろうか?
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