次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
「見えるわけないよね」

『月桃』は一見、大きな民家みたいな建物だ。窓だって大きくないし、入り口も重厚な木製。外からなかの様子は窺えない。
自分の目で見て確認したくても無理だって、すっかり忘れていた。

仕方なく諦めて帰ろうとした時、店の駐車場によく知った車が止まっているのに気付いた。駿介の愛車だ。

艶やかな黒に流線形の美しいフォルムのその車は、車体についた躍動する獣のエンブレムと同じで、荒々しくもしなやかな力強さと侵し難い存在感を持っている。

『俺に似合うだろ?』

納車されてすぐ、初めてドライブした時に駿介が自慢したのを覚えてる。確かその時の私は「俺様で上から目線の感じが?」って茶化したんだっけ。
でもホントは、駿介も車もワイルドなのに上品で堂々としてるトコロが似合い過ぎると、見惚れていた。

運転手付きの車で出社する事の多い駿介も、デートには愛車を運転して来たんだ。きっと夏希さんに見せたかったのかな。そして、この車の助手席は夏希さんのモノなんだって伝えたかったのかな。

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