次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
蔵本の両親から呼び出しがあったと嘘をついて早い時間に会社を出たのは、混乱した気持ちを少しでも落ち着ける為なのに、あてどなく歩く私の心は乱れたまま。

「流石に疲れちゃったな」

二時間以上もふらふらと歩き続けたせいで、ヒールを履いた足は悲鳴を上げている。
近くにあった小さな公園のベンチにすわって、ふぅっと息を吐いた。

「どうせ悩んだトコロで何にも変わらないだから、覚悟決めないとねー。いつまでも自分にさえ認められない不毛な片思いしてても発展性はないし」

駿介は夏希さんと結婚して幸せになる。私は敏彦さんに望まれてお嫁さんになる。この二つはみんなが幸せに暮らす為の決定事項だ。

分かってるから、私は立ち上がって歩き出した。

無意識に歩いていた筈なのに、この公園は『月桃』のすぐ近く。だから、今から自分で自分の心にトドメを刺そう。
駿介と夏希さんが幸せそうにテーブルを挟んで見つめ合う姿を見たら、流石にすっぱり諦められると思うから。

フラフラと店の前まで歩いて行ってから、私は自分の間抜けさに笑った。
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