次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
‥‥息、止まるかと思った。


お店のインテリアが好きだと言っただけなのに、思いっきり反応してどもってしまった。いきなり、あんなに低いトーンで「好き」なんて心臓に悪過ぎる。

しかもいつもの意地悪な笑みじゃない。向かいに座る駿介はとろけそうなほどに甘い表情だ。これでは勘違いしない方が難しい。


「文香には付き合ってるやつはいない」と自分の認識を私に宣言してからの甘い攻撃は二ヶ月経った今も、絶賛継続中だ。

出張に行けば秘書課用のとは別に小さなお土産をくれるし、髪形や服装を褒めてくれる事も増えた。不意打ちで耳元に話しかける時なんて、絶対に確信犯だ。

休日は当然、平日だって今日のように何かと理由をつけて食事や買い物に連れ出される事が増えた。勿論、私が断れないように準備も抜かりない。


私が駿介を意識するように誘導している。


これでは私は以前のように軽口みたいに「好き」を言ったりできない。
ああして冗談めかして言葉にすることは、気持ちのガス抜きの意味もあったのに。
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