冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 このスープは口にしてはいけないものだと悟り、途端に心臓が冷える。
 銀のスプーンを持った指が震えた。
 濡れたスプーンをさっとエプロンで拭って仕舞い、両掌を組んで祈りを捧げた。

 ――神様どうか、慈悲なるご加護を……

 今夜は、パンと豚肉だけをお腹に詰めて、手早く食事を終えた。
 あまり満腹にはなっていない気もするけれど、冷えた心臓が食欲を減退させていたから不足は感じない。
 ただ懐に仕舞う変色したスプーンが、異様に重く感じていた。



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