冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「ねっ、寝屋のお手伝いに参りましたっ」

 返事をいただく前に開かれた扉に少々驚き、言葉が詰まる。
 ゆっくりと隙間を作った扉に顔を覗かせたのは、見上げるほどの長身。
 あまり表情を出されないヴィエンツェ国騎士団長クロードの、切れ長の目が威圧的にフィリーナを見下ろした。
 何も応えないクロードに、もつれる言葉は伝わらなかったのだろうともう一度告げる。

「レティシア様の寝屋のお手伝いに参りました」

 首が痛くなるほどの長身を見上げていると、

「クロード、構わないわ。入っていただいて」

奥からとても柔らかな声音が聞こえてきた。
 クロードが開いてくれた扉の中へワゴンを押しながら身を通す。
 奥の寝台に腰かけていたレティシア姫は、真っ白の柔らかそうな寝着で白く細い肩を包み上げているところだった。
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