冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「あなたには、苦しみを味わいながら消えてもらいたい」

 今まで抱えていたであろう思いを淡々と吐くグレイス。
 対するディオンは、ただ真っ直ぐにそれを受け止める。

「そんな恨みを抱かせるようなことを、私はお前にした覚えがない。強いて言うなら、お前が想っているレティシアと、私が婚約していることくらいだろう」
「本当に何も知らないんだな。国の平和さに頭が浸かりきっている証拠だ」
「一体何のことを言っているんだ」

 グレイスは、何のことを言っているのだろう。
 ディオンが首をかしげるのも仕方ないくらい、グレイスの言い方は含みを持ちすぎている。

「国王に、あれのすべての過ちを聞いてくるといい」
「父、に……?」

 いぶかしく目を細めるディオン。
 なぜそこで国王の名前が出てくるのかと疑問に思うと、抱かれていたフィリーナの身体はディオンの方へと突き飛ばされた。
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