冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「フィリーナ……っ」

 小さく悲鳴を口にして、よろめく身体はたくましい腕に受け止められる。

「すべてを聞いて、打ちひしがれるといい。
 ……本当はもっと、深い苦しみを味わってもらいたかったんだけれど」
「グレイス、お前は……」
「まあどちらにしても、消えてしまいたくなるかもしれないな、あなたは自分から」

 嘲りながら呟いたグレイスは身を翻し、バルコニーの方へと歩んでいく。

「願いが叶えられるのも……時間の問題か」

 そのままこちらを一切振り返ろうとしない後ろ姿。
 もうそれ以上は踏み込ませないよう、見えない壁でも張られたようだ。
 ディオンはその姿を振り切るように、「行こう」とフィリーナを優しく連れ立って部屋を出た。




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