冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「だっ、大丈夫でございますっ! ご心配には及びませんっ!」
「そう、ならいいけれど」

 フィリーナに向かって、やんわりと細められる碧い瞳に、心臓はけたたましく音をかき鳴らす。
 厳しく叱られてしまうどころか、自分なんかを労ってもらえた上に、初めて王子と言葉を交わしたことに、ぐらりと眩暈を起こしそうになった。
 シミは残ったまま始末を終え、もう一度「申し訳ございません」と深々と頭を下げると、「構わないよ」と優しく言うグレイスとは対照的に、無言を貫くディオン王太子の静かな気配の方へは、視線を上げられなかった。



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